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はざま神経内科・内科医院

  HAZAMA CLINIC of NEUROLOGY & INTERNAL MEDICINE

内科 神経内科 / プライマリケア 産業医

はじめに

30年来の友人が思い出したかのように私のクリニックを訪れます。彼の病気は筋ジストロフィー症。
彼は私達医師が彼の病気には無力であることを熟知しており、私の診療は受けません。彼は新しい情報を得るためにやってきます。現在、筋ジストロフィー症の治療がどこまで進んで、そして実用化される日が来ることを。 
筋ジストロフィー症は古代エジプトの壁画に描かれていると言うことですから太古から存在してきたことは間違いありません。いかなる人種においても人口10万人に5名前後の有病率と考えられています。しかしこの疾患が世界的に注目されるようになったきっかけを作ったのはこの病気の慈善事業として行われた「ジェリー・ルイスショウ」ではなかったろうかと思います。今でこそ見る機会は殆どありませんが、ジェリー・ルイスは幼少時の頃私が初めて俳優の名前を記憶した当時のスーパースターでした。ディーン・マーチンと組み、当時世界最強のお笑いコンビであったと記憶しております。解散した後ディーン・マーチンは歌手、映画スターとして活躍したあと、アルツハイマー病で死亡しました。ジェリー・ルイスは慈善事業にすすみ、ジストロフィーへの理解と研究資金提供へ多大の貢献をしました。我が国においても各県にりっぱな施設ができたのも彼の功績があったればこそではなかったでしょうか。
現在、筋ジストロフィー症は多くの分類がなされておりますが、筋ジストロフィー症として病気自体が確立した疾患はDuchenne(デュシャンヌ)型筋ジストロフィー症です。

Duchenne(デュシャンヌ)型筋ジストロフィー症



(上図はDuchenneが患者の顔面に筋電計をあてているところ)
1868年にフランス人医師デュシャンヌ(Duchenne)が詳細に記載したため、彼の功績をたたえ、疾患名として確立しました。彼の論文にはこれ以上付け加える必要の無いほど完璧なものでした。
この疾患は病態的には大変特徴時な事柄を示しております。
まず、遺伝学的に性染色体劣性遺伝であり、男児のみに発病します。
臨床症状にも特徴があります。患児は出産時には正常に分娩しますが、4〜5才頃より歩行障害が始まり、骨格筋の萎縮と筋力の低下が始まります。10歳前後には歩行が出来なくなり、20歳前後で死亡に至ります。ふくらはぎは異常に大きく(仮性肥大)なるのも特徴で、これを証明することで診断が可能となります。腹這いから立ち上がるときの動作は床、自分の膝、大腿に次々に手を押し上げる所作(登はん性起立)が特徴的です。
生化学上は筋肉内に含まれる種々の酵素(CPKなど)が血液の中に放出され、著明な異常値を示します。
原因
ここ10数年における遺伝学のめざましい発展で、ジストロフィー症を引き起こす遺伝子の多くが発見されてきました。
正常の筋繊維は筋膜で覆われ、収縮と弛緩を繰り返しております。筋肉の膜を構成する蛋白は性染色体上にあり後にジストロフィンとな名付けられた蛋白がその主翼を成しています。Duchenne(デュシャンヌ)型筋ジストロフィー症の場合、このジストロフィンが欠損するために筋繊維が破壊することがわかりました。

その他の筋ジストロフィー症

筋ジストロフィー症にはDuchenne型以外に幾つかのタイプがあります。代表的な分類としては肢帯型筋ジストロフィー症や顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー症があり、前記のDuchenne型に比べると予後は良好と言えるでしょう。
しかし、日常生活はどうでしょうか。四肢の筋萎縮と筋力の減退は進行するため、職場は追われ、家庭生活さえ維持することが困難になります。
前述のDuchenne型の子供達は国のいたる所に筋ジスセンターが完備され、施設が整っております。しかし、成人の患者にはほとんど社会の援助がなされていないのが現状です。むしろ、子供達へ分厚い援助を与えたがために、成人の症例は放置されたと言うのが現況です。難病指定疾患からははずされ、介護保険での特定疾患指定にも入っておりません。さらに追い打ちをかけるように医療保険改訂の余波で、入院先の病院から追われているのが現実です。
最初に紹介した友人はまだどうにか乗用車を運転できるために移動する手段をもってはいますが、これがいつまで続けることが出来るのか危惧されます。さらに心配なことは、通行人と接触して転倒した場合、立ち上がることが出来ない事です。
ジストロフィー症のみならず、身体にハンディーをもつ人々が生活しやすいインフラの整備をしていくことも大切です。

治療

現在残念ながら治療法はまだみつかってはおりません。ES細胞を使用して、ジストロフィーマウスに正常の筋肉を発現させる実験に成功したとの発表がつい先日なされました。このような実験が次々に実用化されていくことを期待しています。